「新聞配達に関するはがきエッセーコンテスト」
応募作品



「とろけた新聞」その1

「り…ん」けたたましい目覚ましの音で目を覚まし、あっという間に着替えて自転車を走らせる。早朝で信号無視などお茶の子さいさい。1時間で約百件を自転車で回る。後ろの荷台、前のかごにもビニールで包んだ新聞をのせる。

今日は生憎の雨。調子に乗って軒先に飛ばした新聞がフワっと戻ってきて水たまりにぼちゃん。急いでタオルで拭き取りそっと置いていく。

しかし、悪いことはできないものだ。自転車のスタンドがぬかるみにめり込んで、転倒している。目の前が真っ暗になる。

水たまりに落ちて、とろけそうになった新聞を、戸の透き間からそっと入れようとした瞬間、がらがらと戸が開いて、「ご苦労様」の声。「ちょっと濡れちゃったんですけど」と苦し紛れに言うと、「いいですよ」の声にほっとする。そして、何とも言えない気持ちで胸がいっぱいになる。

高校1年の時、新聞配達を1年間やった経験は、朝の清々しさと、人の温かさを感じさせてくれた1年でもあった。


「とろけた新聞」その2

大粒の雨が、トタン屋根に落下する音で目を覚ます。雨音が不吉な旅を予感させた。急いでカッパを着て、自転車で1時間15分、約百件の旅が始まった。

慣れた手つきで新聞を縦に二つに折り、ポストのない家の玄関先に飛ばす。「あー」と思った次の瞬間、フワっと戻ってきて水たまりにボチャン。あわててタオルでふき取ってそっと置いていく。

しかし、悪いことはできないものだ。自転車のスタンドがぬかるみにめり込んで、転倒している。前の籠に入っていた新聞の一部が水たまりに。目の前が真っ暗になり、新聞はとろけそうになる。

その新聞を、戸の隙間からそっと入れようとした瞬間、ガラガラと戸が開いて、「ご苦労様」の声。「ちょっと、ぬれちゃったんですけど」と苦し紛れに言うと、「いいですよ」の声にほっとする。

高校1年の時、小遣い稼ぎのために始めた新聞配達の経験は、人の心のぬくもりを感じた貴重な1年でもあった。


「雨音は憂鬱の調べ」
(「雨音は不吉の調べ」

大粒の雨が、トタン屋根に落下する音で目を覚ます。雨音は「ショパンの調べ」なんかではなかった。急いでカッパを着て、自転車で1時間15分、約百件の旅が始まった。

慣れた手つきで新聞を縦に二つに折り、門から玄関先に飛ばす。「あっ」と思った次の瞬間、フワっと戻ってきて水たまりにボチャン。あわててタオルでふき取ってそっと置いていく。

しかし、悪いことはできないものだ。自転車のスタンドが、ぬかるみにめり込んで倒れている。前の籠に入っていた新聞の一部が水たまりに。目の前が真っ暗に、新聞はとろけそうになった。

その新聞を、戸の隙間からそっと入れようとした瞬間、ガラガラと戸が開いて、「ご苦労様」の声。「ちょっと、ぬれちゃったんですけど」と苦し紛れに言うと、「いいですよ」の声にほっとする。後ろめたい気持ちを引きずりながらも、救われたその一言。23年たった今も、雨の日に新聞を取りに行くたびに思い出すのである。

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