Wedding Speech

根本先生 ○子さん、
            ご結婚おめでとうございます。

 独身貴族でいたはずの根本先生が、いつの間にか、こんなに素敵なお嫁さんをもらっ
て、新しい家庭を作るなんて、みんなでびっくりしています。

 私達と根本先生との出会いは、六年も前のことになります。憧れていた中学校生活、
大きな夢と希望を抱いて入学した私達を迎えたのは、先生方よりも生徒たちのほうが威
張っていて、いつも誰かにいじめられやしないかと不安ばかりが大きくなっていくよう
な学校でした。

 入学と同時に、一日にして、夢も希望もどこかへいってしまったその学校で私達は、
理科の新任教師として赴任していらっしゃった根本先生と出会ったのです。
先生は大学を出たばかりの新米先生とは思えないくらい堂々としていて、どこか凄み
がありました。
 学校を我が物顔で歩く先輩たちに、背を向けることなく、見捨てることなく、真っ直
に向かっていました。

 「先生、あんな先輩たちなんてほって置けばいいのに、どうせ注意したって無駄じゃ
ない。」そう思うときでも、先生は体当りの教育をしてくださっていたのです。
 いつか先生が私達に配ってくださった学級通信の中でこんな言葉があったのを今でも
よく覚えています。

 「俺は、高校時代、生徒を信じないことにしている、と言った教師、教官室でコーヒ
ーを飲んでいて、生徒に勝手に体育をやらせていた教師、そういう教師に俺はなりたく
ない、いつか、彼奴等を見返す教師になってやる。」
 この言葉こそ、現在の先生の素晴らしさを物語っているのではないでしょうか。

 先生の授業について少しお話させていただきますと、理科という科目のせいもあった
と思いますが、教室外での授業が多かったように感じられます。屋上で、太陽の模型を
使った実験、雪の結晶の観察と称して、びしょぬれになりながら雪合戦をしたこと、構
内に生えている草花の観察、この時には、先生が、まるで植物博士であるかのように思
えたものです。

 「名もない花が、・・・・…」というフレーズを耳にすると、「名もない花な
んて絶対ないんだぞ、そういうことをいう人は、ただ単に無知なだけだ。」といったあ
の自信たっぷりで、自慢げな先生の笑顔がいまでもすぐに目に浮かんできます。
 テスト問題にしてもとってもユニークで、理科に全然関係ないような質問や、先生の
ニックネームであった「ねもじい」という言葉を元素記号で書かせたりなど、本当に楽
しいものでした。

 また、マラソン大会や球技大会、体育祭も忘れられない思い出となっています。
育ち盛りで、先生よりもがっちりしていて、背も大きい男の子たちに混じって、半そ
で、単パン姿で、負けまいと頑張っている先生に思わず、「ねもじい、頑張れ」と言っ
たこともありました。

 中学のときのことを思い出すと、本当にきりがないし、卒業後もみんなと顔を合わ
せると、先生のこともよく話題に上り、「ねもじい、どうしてるかなあ…、まだ
彼女いないのかなぁ…」なんて、ついこの間までいっていたのに、結婚なんて、
今でも信じられないくらいです。

 まだ幼くて、何も分からず、先生に反抗したり、ささいなことで、泣いて、困らせて
ばかりいた私達も、もうすぐ大人の仲間入りをします。
年の差は、以前と変わっていないはずですか、先生のことを、より近くに感じるよう
になりました。

 先生のところに、私達の結婚式への招待状が届く日も、そう遠くはないと思います。
今まで、先生は、全てのことにおいて、私達の師でありました。
 ひとあし早く、人生の新たな出発点に立たれた先生、これからも私達が、お二人を目
標とできるような、素晴らしい家庭を築いていってください。

 私達が理想の家庭を思い描くとき、それが、根本先生の家庭であることを望んでやみ
ません。

 ○子さん、どうぞ私達の先生を宜しくお願いいたします。
お二人が、末長く幸多かれと、私達みんなでお祈りしています。

                                            K・Kaori