右脳活用法・その2       品川 嘉也


 まず得意なことから手をつけると、苦手なことにも楽に集中できる
 「まず小さなこと、やさしいことでいいから、成功体験を優先させる」というのは、右脳集中そのものの性質とも深く結びついている。
 右脳集中力には、高い惰性があるのである。
 高い惰性があるということは、ひとたび大脳のエネルギー水準が高まった場合、それを時間的にも持続させることができるということだ。右脳集中力を鍛えようとするなら、この性質を利用しない手はないのである。
 だから、なにかやさしいことに集中したら、その集中力を次の事柄につなげてゆくことが、集中力を鍛えるうえで大切となる。

 昔から「好きこそものの上手なれ」というが、古人はやはり、集中力というものを体験的に知っていたといえよう。好きなことには熱中できるし、熱中できれば上手になるということだ。これを「当たり前」といって片づけてはならない。そして好きなことに熱中できたら、そのエネルギーの高まりを他のことにも振り向けることが、集中力を持続させ高めるコツとなるのだ。

 小学校入学以来、誰でも数えきれないほどの試験を経験している。それを振り返って、ちょっと考えてみたい。
 誰しも、試験の直前になるまでは勉強が手につかないことが多い。それどころか、直前になっても気分がのってこない。ギアが入らないのである。

 ところが、いったんギアが入り気分が乗ってくると、それ以後は勉強が不思議なくらい進む。これをよく思い出してみれば、はじめは自分の好きな科目から手をつけているはずである。好きな科目、得意な科目から手をつければ、ギアは間違いなく入る。
 いちどギアが入ったら、次に大切なのはそれをはずさないことである。
 こういう点、集中力は車の運転と実際よく似ている。ロー・ギアで発進したら、そのゆっくりした発進速度を利用してセカンドへアップする。
 つまりロー・ギアである程度集中力がついたときは、脳のエネルギーはそのロー・ギアの一点に集中し始めているわけだし、それはエンジンを切らないかぎり維持できる。その集中力を次の事へうまくつないでゆくのだ。
 英語が得意なら英語から始めて、それから苦手な物理にその集中力をつなぐのである。こうして集中力をうまくつなげていけば、試験の準備はそれほど苦労せずにできるものだ。

 しかし、右脳集中にとってもっと大切なのは、その後である。
 試験が終われば「バンザーイ」とばかり、すっかり肩の荷をおろした気分で街に出てしまう。ホッとするのは無理もないが、しかしここでホッとしすぎると、それまで維持されていた脳のエネルギー水準は、一挙に低下してしまう。学習するのは大変でも、学習した事を忘れてしまうのは実に簡単だ。ホッとしすぎると、学習内容だけでなく肝心な集中体験、大脳に刻まれたはずの集中体験の回路さえ消失しかねない。エンジン・キーを切ってしまった状態に戻ってしまうのだ。
 だから、そこをもうひと踏んばりして、エネルギー水準をもう少し維持する努力が大切となる。

 それで私は、学生諸君にも必ずこう言っている。
「試験前だけでなく、むしろ試験が終わったあとを大切にしなさい。試験が終わった日と、その翌日、二日間でいいから勉強を反復しておきなさい。」
 これは試験に限った事ではない。ビジネスマンがその日に体験し身につけた事についても、事情は同じである。
 たとえばその日、ビジネスのうえで大切な人物と会った。その人の名前、顔、そして話の内容などは頭に刻み込み、あとあと活用しなければならない。それを「赤ちょうちん」のお酒にかまけて一度も頭にのぼらせないと、せっかく大脳に作りかけた回路は消えてしまう。そこを、相手の顔をイメージとして右脳で思い描いておけば、話の内容もちゃんと大脳に刻印されるはずなのである。
 つまり、脳のエネルギー水準が高まってまだ「余熱」を持っているうちに、集中体験を反復学習しておく事が、何より大切なのである。