右脳活用法・その1       品川 嘉也


 糸川博士の場合、全体の感じを右脳でつかんでから、チェロという楽器を使って実際の練習に入るのだが、そこでも右脳集中にとっては願ってもない方法をとっている。
 というのは、決して冒頭から練習に入らない。少なくとも「冒頭から練習しなくてはならない」という考え方をしないのである。
 全体を見たうえで、最もやさしい部分から練習し始めるのを旨としている、というのだ。
 糸川氏によると、だいたい音楽というものは、初めの部分は難しくできており、逆に、最後に近い小節ほどやさしくなっているという。
 そこで、最後の小節であれ、あるいは他の箇所であれ、ともかく一番やさしい箇所から練習し始めるというのである。

 こうした練習や学習の方法が、右脳集中を鍛え、あるいは育てるうえで有利だというのは、やさしいものであれ「弾けた」「できた」という成功体験が前頭葉を刺激し、その心の快感が、未知なものへの創造的意欲を高め集中させることができるからだ。昔から「急がば回れ」というが、飛躍を期待すればこそ、やさしいもの、楽しくできる事柄から段階を踏むことが、やはり大切となるのである。
 さらに、やさしいものであれ、その成功体験は右脳のイメージ力、またパターン認識力によって、大脳にしっかり記憶され得るというメリットがある。
 たとえば、左手の指の動き、あるいは右手に持った弓の使い方など、各々の動きがパターンとして右脳に入ってくる。それは新しい学習として基礎づけられ、さらなる飛躍を可能にするのである。

 だれしも困難すぎるもの、やれば失敗しそうなことには、気持ちは集中しないものだ。そうしたことに挑戦しようにも、「できない」「失敗するぞ」という左脳による言葉の暗示にかかってしまう。
 これを避けて右脳本来の能力を発揮させるには、何よりも「小さな成功体験」を積み重ねることが肝要なのである。