季節の花   露草(つゆくさ)

 
つゆくさとは誰がよびそめし。まことに濃い藍色の花が咲けば、草むらは露しとど、秋のおもいことさら繁きこのごろである。蛍草とも呼ぶ。子供の頃、蛍かごに入れると虫が元気になると言い合った。なるほど、つゆ草に止まる蛍の赤いお尻は絵になる。王朝の昔はこの花の汁で布を染めた。本物の染料ではないからすぐ水に消え、日に当たってさめる。それ故、またの名つき草ははかなきもののためしとされた。月草と書かれるが、もとは着き草、衣につく草である。また花色とはその花に似た藍色を呼ぶ名である。

 夜明けとともに開花、たいてい昼前閉じる。花の下に大きなあみ笠型の苞(ほう)があるので、帽子花とも呼ばれる。あみ笠の帽子を開くと、中に幾つもの花が用意されていたことがわかる。まだつぼみのもの、すでに花のすんだもの、そして実を結んだもの。それらが次々交代に帽子の外に顔を出しては開花する。つぼみが帽子の中にある期間は長く、順序を待ちかねて首を伸ばし、半日を帽子の外に咲き誇る。しぼめばすぐ柄がくるりとひっくり返ってまた帽子の中。ここで安全に結実、やがて果実は裂けて種子を散らす。

 6本の雄しべを持つが、花粉を出すのは最も長く突きだした2本だけ。あとの4本は花粉を吐かず、飾り雄しべとか仮雄ずいとかと呼ばれる。
 
 本来の役目を失った葯は鮮やかな黄色、青い花弁を背景に人目につく。虫目にもつくだろうに、蜜のでないこの花には虫の訪れがめったにない。そこで花がしぼむとき、雄しべ・雌しべはくるくる巻いてからみ合い、自花受粉で補う。花のしぼんだ後も良い自然観察の材料である。