1叱ったら10ほめろ
ー叱ることよりも、そのあとのフォローが大切なんだー

 人間と猿を一緒にしたら怒るかも知れないが、やはり教育という意味では同じだ。猿だって、1匹1匹、気性が違う。だから同じ芸を教えるにしたって、同じようにしていたら駄目なんだ。同じことをさせて、できないから「この子はバカだ」じゃなくて、この子にはこういう方法が向いている、こっちはこういうやり方が早い、それだけの違いなんだと考えなければならない。

 猿に性格なんて・・・・・と言う人も多いが、例えば2匹の猿にそれぞれボールを渡してやる。まるっきり興味を持たずに、ポイっと投げ捨ててしまう猿もいれば、ボールをかじりながら、延々と遊んでいる猿もいる。その2匹に同じ調教をしたって無駄なんだ。私は猿も自分の子供と思っているから、叩くときもある。人間の学校だって、授業中にふざけていたらコツンとやられるんだから。

 だけどどんなに叱っても終わった後に抱っこをしてあげればいい。ウンチだらけになっても、必ず抱っこをしてあげる。たとえ2〜3回叱られても、抱っこされたときの温もりを猿も忘れないから「いいや、怒られても。今日もお猿の学校に行こう。」となるのだと思う。終わったあとに抱っこをして、「今日はよくやったな」それだけでいいんだ。

 人間の学校だって同じだ。先生が体温の伝わるような教育をしていれば、生徒の登校拒否なんてなくなるよ。

 生徒の一人がその日悪いことをして叱りつけたら、帰り際に必ず二人っきりになれるところに呼んで、「今日は叱ってごめんな。だけどお前も悪かったんだぞ。あんなことはいけないことなんだべ」と諭してやる。そうしたら、生徒のほうから「ごめんなさい」と謝ってくるよ。明日から頑張ろうという、やる気も出る。それを叱ったら叱りっぱなしで帰してしまうから、子供がペチャンとなってしまう。

 叱れば叱るだけ、子供というのは反抗するものなんだ。だから叱ったら、その後に必ずフォローをしなければならないんだ。もの売りだってそうだ。アフターサービスがなかったら、その店はものが売れなくなる。電器屋だって、売りっぱなしで修理にも来なかったら、誰がその店でまた買い物をしようなんて思うだろうか。

 ましてや子供は感じやすい。1回殴っただけで、取り返しがつかなくなるときもある。1回叱ったら10回ほめたってダメな時もある。そのときは100回ほめてあげなければならない。
 
 つくづくと思う、ほめるのをケチってはいけない。

 叱るときはきちんと叱る。その後は必ず何かほめてやる。
1叱ったら、10ほめろ。それが私の教育の基本だ。
叱るときとほめるときの強弱をつけること。
だらだら、だらだらと叱っていたら、伸びるものも伸びないし、叱られる側の緊張感もなくなってしまう。 

(日光猿軍団校長 間中 敏雄 著「サルのつめのあか」より)