スポーツおもしろ学 狩猟の衝動を刺激
サッカー<獲物に突進する選手>

 サッカーが、ファンにはこたえられない、ぞくぞくするような興奮を覚えさせるのは一体何が原因なのだろうか。
 人間行動学者のデズモンド・モリスは自著「サッカー人間学」(小学館)で興味ある視点からその疑問を説きほぐしている。彼によると、サッカーの試合は二つのチームがしのぎを削り、表面的には選手は戦っているように見えるが、実際には相手を倒すのが目的ではない。敵をかわしながらシュートを放って、屠殺(とさつ)を果たそうとする狩猟シュミレーションゲームだという。
 
 つまりゴールが獲物でプレーヤーは狩人。チームは狩猟団。ボールは武器というわけだ。本来の狩猟では獲物は動き回るが、サッカーでは獲物に見立てられたゴールは逃走の機会を与えられていない。そこで獲物を守る使命を持った敵の一群を導入し、屠殺をできるだけ難しくすることで狩猟としての興奮の盛り上げを図っているのだという。こうすれば、両チームが瞬時に攻守ところを変える相互狩猟が可能となる。

 このように言われてみると、実際のゲームやプレーの一つ一つが、狩猟とオーバーラップするのが見えてくる。プレーヤーは知力、体力、技術、戦術を総動員して困難を克服し、ゴールである獲物を目指す。そして、照準を合わせてシュート。成功した瞬間にクライマックスに達するのだ。
 
 文明社会の人間は、狩猟生活から離れたとはいえ、今なお狩猟技術と狩猟への衝動は残存している。潜在欲求として、絶えずそのはけ口を求めているという。
 競技スポーツは多かれ少なかれ狩猟の要素を取り込んでいる。中でも破壊力のあるシュートに象徴されるサッカーが、最もダイナミックにその潜在欲求を満たしてくれるというわけだ。だからこそ、爆発的なまでの興奮を呼ぶのである。