わが息子よ、君はどう生きるか

*父親が息子に贈る人生最大の教訓* チェスターフィルド

 わが子に「どう生きるべきか」を教えられるのは、父親ただ一人だ。自分の歩んできた道を振り返り、何を失い、何を得てきたか、を余すところなく子供に伝えるのが、父親の役目なのだ。そして、子供が自分を乗り越え、新たな一歩を踏み出したとき初めて、父親の人生は完成する。「人間知」に満ちた本書は、すべての父と子にとって、最高の「人生の教科書」となるであろう。
 イギリス最大の教養人の著者、チェスターフイールドが自分の息子にあてて人生万般の心得を説いたものとして、人生論の名著として、一千万人もの人々に読み継がれている。ここでは、本書のエキスのみを紹介する。

1、若者は、人よりぬきん出よう、輝こうとしなくてはならない。機敏で、行動的で、何をするにも根気強くなくては。シーザーも言ったように、「優れた行動でなければ、行動とはいえない」のだ。

2、人は誰でもなろうと思うものになれると私は思う。ふつうの知力を持った人なら、能力を開発し、集中力を培い、努力を怠らなければ、詩人は別として、なりたいものになれる。

3、怠慢な人は、たいていのことを「できない」と考え「できない」という。実際に真剣に取り組んでみれば、本当にできないことなどそう沢山はないのに。こういう人たちにとっては、難しいことイコール不可能なのだ。というより、自分の怠慢さの言い訳にそう考えるふりをしているのだ。

4、世の中には、つまらないことで年がら年中忙しくしている人がいる。彼らは、何が重要で何が重要でないかがわかっていない。だから、大切なことに費やすべき時間と労力を、つまらないことにつぎ込んでいるのだ。

5、若者にはよくあることだが、優越感を示したいがために、あるいは周りの人を喜ばせたいがために、人の弱みや短所を暴露するような真似をする。だがこれだけは決してしてはいけない。そういった誘惑には打ち勝たなければいけない。その時は、周りの人を笑わすことができるかも知れない。けれども、そのことによって、君は生涯の敵をつくることになる。

6、精神レベルの低い生活をしている人は、快楽だけを追い求め、品位のない遊びに身をやつすことが多い。一方、精神レベルの高い生活をしている人たち、よい仲間に囲まれた人たちは、もっとさりげない遊び、洗練された、危険の少ない、そして少なくとも品位を失うことのない遊びに興じているはずだ。

7、良識ある立派な人間は、遊びが目的になってはいけないことを知っているし、また遊びを目的にはしないものだ。彼らは知っているのだ。遊びは単に安らぎであり、慰めであり、ごほうびにすぎないと。

8、夕べの友人との交わりは、君にもう一つの知識(世の中についての知識)を与えてくれるだろう。朝は本から学び、夜は人から学ぶ、これを実践するとなると、もはやのんびりしている時間はない。

9、本を読む時は、目的を達成するまでは、他の関係の本に手を出さないことだ。一時に幾つものテーマを追求するよりは、一つに絞って体系的に追 求するほうが能率的だ。

10、一瞬のうちに、その場に見合った態度を決められる力「順応力」が役に立つ。真剣な人に対しては真面目な顔ができ、陽気な人には明るく振るまい、くだらない人物にはいい加減に相手をする。こういった能力を身に つけるよう精一杯努力してほしい。

11、「楽しそうに見えること」と「本当に楽しいこと」を見分ける目を養うことが重要だ。

12、一般論を用いること、信じること、正しいと認めることには慎重になってほしい。そもそも、一般論を持ち出してくるような人物には、うぬぼれの強いこざかしい人間が多い。本当に賢い人物は、そんなものを持ち出 す必要がない。こざかしい人間が持ち出してきても、そんなものに頼らざるを得ない内容の貧困さを、気の毒に思うだけだ。

13、結局のところ、自分に確たるものを持っている人は、一般論などに頼らなくても、言いたいことはきちんと言えるのだ。くだらない一般論にはソッポを向き、そんなものを持ち出さなくても十分楽しく、ためになる話 題を提供できる。皮肉を言ったり一般論を引き合いに出したりしなくても、相手を退屈させることなく、機知に富んだ話ができるのだ。

14、いったん自分で考えようという志を立て、それを始めてみると、驚いたことに、ものの見方は見事に変わった。与えられた考え方でものを見たり、実体のないところに力があると錯覚していたそれまでと比べて、物事はなんと整然として見えたことか。
 勿論、私は今でも、他人から与えられた考え方をしているかも知れない。長年のうちに他人から与えられた考え方が、そのまま自分の考え方になったものもあるだろう。実際のところ、若いときに教え込まれ、そのままずっとそれが正しいと思ってきたことと、後年になって、自分の力で育んだ考え方の区別ができなくなることもあり得ない話ではない。

15、知識は豊富に、態度は控えめに・・・知識の量が増えれば増えるほど、控えめにすることだ。確信のある事柄についても、あまり確信がないふうを装う。意見を言うときも、言いきってしまわない。人を説得しようと思ったら、相手の意見にじっくり耳を傾ける。そのくらいの謙虚さがなければいけない。

16、知識は懐中時計のように、そっとポケットにしまい込んでおけばいい。見せびらかしたくて、必要もないのにポケットから取り出してみたり、時間を教えたりする必要はない。時間を聞かれたらその時だけ答えればいい。

17、自分の目で見、耳で聞いて世間を知っている人は、全然違う。同じように「ほめる」威力を知ったなら、いつ、どこで、どの様にそれを使えば いいかをちゃんとわきまえている。いうなれば、患者の体格に応じた投薬ができるのだ。

18、好感の持てる話し方をする人は、話の内容まで立派に聞こえたり、その人の人格にまで惚れ込んでしまうことはないだろうか。

19、私たちは、演説で何かを教えられるよりは、楽しく聞けることの方を選ぶ。元来教えられるということは、あまり気分の良いことではない。無知だと言われているようなものなのだから。人の賞賛を浴びるには、まず、のどごしが良くなくてはならないのだ。

20、話し上手の人間になりたいという目標を常に心に置いて、その実現のために本を読んだり、文章の練習をするなど、全神経をそこに集中させるのだ。本から良い表現を盗み、自分を表現する「言葉」を日々磨くのだ。

21、若い人は人間にせよ、ものにせよ、過大評価しがちなところがある。それはよく知らないからだ。知るにつれて、評価はだんだん下がってくるはずだ。人間は、君が思っているほど理知的、理性的な動物ではない。感情に支配され、簡単に崩れ落ちるもろさを持っている。

22、優れた人々の中に入って失敗を重ね、挫折感をいやというほど味わううちに、次第に君も、洗練された態度が身につくだろう。

23、つまらぬ人間は軽くあしらっても「敵」に回すな。

24、虚栄心(もっと柔らかく言えば、人から賞賛を浴びたいと思う気持ち)はどの時代のどの人間も、必ず持っている気持ちではないだろうか。この気持ちが高じて、愚かな言動や犯罪行為を犯してしまうこともある。が、概して、人からほめられたいと思う気持ちは、向上につながるのではないかと私は考えている。

25、人から認められたい、ほめられたいという気持ちがなければ、私たちは何事にも無関心になり、何をする気も起こらなくなる。そして、実際に何もしなくなる。そうなれば、自分の持っている力を発揮することもない。そして、実力以下にみられることに甘んじるほかない。ところが、虚栄心の強い人は違う。実力以上に見られようと、精一杯努力する。

26、いつも「一番になりたい」という気持ちが能力をひきだす・・虚栄心を、哲学者は「人間の持つ卑しい心」と呼ぶ。しかし、私はそうは思わない。虚栄心があったからこそ、現在の私という人格ができあがったのだ。虚栄心ほど人間を出世させるものはない。

27、私は、人々がわずかでも好意を表現してくれたり、友人として何かをしてくれたときには、決してそれを見逃すようなことはしなかった。ひとつひとつに気を配り、感謝を忘れなかった。

28、君も、あちこちで見かけているだろう。人間的に特に優れているというわけでもなく、教養もないのに、快活で、積極的で、粘り強いというだけでのし上がってきた人たちを。そういう人たちは、男性からも女性からも、拒否されるということがない。どんな困難にあっても、くじけることがない。二度や三度退けられても起き上がり、また突進する。そして最終的には、十中八九初志を貫徹する。立派というほかない。

29、みじめな失敗、挫折こそ最大の師となる。

30、「ここから先は踏み込まない、踏み込ませない」つき合い方も大切。

31、実社会では、才能があることが大前提だが、それに加えて自分の考えをしっかり持ち、それを人前で不必要にさらけ出さず、確固とした意志を持ち、不屈の粘り強さがあれば、怖いものなどありはしない。わざわざ不可能に挑戦することはないが、可能なことなら、手を変え品を変えて挑戦すれば、何とかなるものだ。一つの方法で駄目だったら、もう一つの方法を試し、相手にあった方法を捜し当てると良い。

32、大切なのは、不可能と可能を見分ける力だ。単に難しいだけなら、あとは貫き通そうとする精神力と、粘り強さがあれば何とかなる。勿論その前に、注意深さと集中力が必要なのはいうまでもない。

33、もし、自分のことを気にかけてもらったことがそんなに嬉しいのだったら、君も、人のことを気にかけてあげなさい。君が気にかけて親切にしてあげればあげるだけ、相手も喜んでくれるものだ。

34、相手に合わせてカメレオンのように自在に色を変え、話題を選ぶ。これは、邪悪な態度でも、卑しい態度でもない。いわば、人付き合いに欠かせない潤滑油のようなものだ。その場の雰囲気を読みとって、真剣にもなれば陽気にもなる。必要とあらばふざけもする、というのが好ましい。これは大勢の人間の中にいる時の、エチケットのようなものだ。

35、どんなことがあっても絶対してはいけないのは、真っ先に自分の話をすることだ。これは極力避けるように。どんな立派な人でも、自分の話をすれば、様々な仮面をつけた虚栄心や自尊心が自然に頭をもたげてきて、結局は自慢話になって、一緒にいる人たちを不快にさせてしまうのだ。

36、自分からは何も言わずに黙っていれば、かえって長所があると思われるものだ。しかし、自分でそれを言ってしまえば、周りの人の反感を買い、思ってもみない結果に落胆するだろう。そんなことにならないためには、自分の話をしないのが一番だ。

37、特定の人に気にいられよう、特定の人と友達になろうと思ったら、その人の長所・短所を探し出して、その人がほめてもらいたがっているところをほめるという手もある。優れている部分をほめられるのは嬉しいが、それ以上に嬉しいのは、優れていると思われたい部分をほめられることだ。これほど、自尊心をくすぐられるものはないといっていい。

38、どんな人にも、ほめられたい箇所がある。それを見つけるには、観察するのが一番だ。その人が好んで話題にするものを、良く注意して観察す るといい。たいていは、自分がほめられたいこと、優れていると認められたいものを、一番多く話題にのせるものだ。そこが急所だ。そこを突けば 相手は落ちる。

39、君は、人をほめるのがあまり得意でないようだが、それは、人間がいかに自分の好みや考えを支持してもらいたがっているか、さらには明らかにまちがった考えや、自分の小さな欠点まで大目にみて認めてもらいたがっているか、まだ良くわかっていないからだ。

40、人は、陰でほめられることほど嬉しいものはない。

41、人望を集めることはそう難しいことではない。優雅な身のこなし、真剣な眼差し、ささやかな心遣い、相手の喜ぶ言葉、雰囲気、服装など、ほんのちょっとした行為が幾つも集まれば、相手の心をつかむことはできる。

42、好感を持たれる所作は、実際に真似をし続けるうちに、必ず身についてくる。それは、現在の自分を振り返ってみればすぐわかる。現在の自分の半分以上は、真似によってできていはしないだろうか。大切なのは、良い例を選ぶということ、そして何が良いかを見きわめることだ。

43、集中力と観察眼をもって、優れた人たちとつき合うようにすれば、知らないうちに君も、彼らと対等になっているだろう。

44、礼儀とは、「お互いに、自分を少し抑えて相手に合わせようとする、分別と良識ある行為。」である。

45、人の心をつかむ術を知っているということは、何にもまして強い力を持っているということなのだ。

46、ダイヤモンドだって、原石のうちは何の役にも立ちはしない。値打ちはあるかもしれないが、磨かれて初めて人々の身につけられる。磨きという最後の仕上げがなされないなら、いつまでも汚い原石のままで、せいぜいもの好きな収集家の陳列棚に入れられるくらいのものだ。

47、人生最大の教訓「物腰は柔らかく、意志は強固に」・・・物腰の柔らかさと、意志の強さを兼ね備えることができるのは、強引な人でも八方美人でもない。賢者だけだ。

48、人に命令を下す立場にある場合、丁寧な態度で命令を下せば、その命令は喜んで聞き入れられ、気持ち良く実践に移されるだろう。ところが、頭ごなしに命じられたら、命令はいい加減に遂行されるか、途中で放り出されてしまう。

49、物腰の柔らかさと、意志の強さを兼ね備えることこそ、軽蔑されることなく愛され、憎まれることなく尊敬の念を抱かれる唯一の方法であり、また、世の知恵者がこぞって身につけたがっている、威厳を身につける方法でもある。

50、表情、話し方、言葉の選び方、発声、品位、そういったものが柔らかければ「物腰は柔らかく」なり、そこに「意志の強さ」が一本通れば威厳も加わり、人々の心を引きつけることは間違えない。

51、態度は中身と同じくらい大切なことがある。

52、生きる知恵の根本は、何といっても感情を表に出さないこと、言葉や動作や表情から、心が動揺していることを悟られないようにすることだ。悟られたら最後、自己操縦のうまい、冷静な相手の意のままとなってしまう。これは仕事の場に限ったことではない。普段の生活でも、気づかれずに操られる可能性はいくらでもある。

53、自分の感情や表情を隠すことのできない人は、できる人の手玉に取られる。ほかのすべての条件が対等の時でさえそうなのだから、相手が凄腕の場合など、さらに勝ち目はない。

54、心を読まれるようでは、人を制することはできない。心を読まれるようでは、何ひとつ仕事は成就しない。

55、君が「こんな話ご存知ですか」と尋ねられた時、「ええ」と答えてしまったら、相手を失望させてしまう。そして、結局は「気のきかない人」とけむたがられてしまう。いつも何も知らないということにしておけば、ひょんなことから、本当に知らなかった情報が完璧な形で入ってくることもあるだろう。そして実は、これが情報を集める最高の方法でもあるのだ。

56、自分の感情を抑え、表面を平静にとりつくろえる人は、ライバルに勝つことができる。

57、人にものを頼んで成功するための最善の方法は、それに先立つその人との長い交際によって、その人の信用を得ることである。

*訳者解説*『息子への手紙』(Letters To His Son )は1774年に出版された。著者(1694ー1773)が活躍したのは今から300年近くも前である。長い間この本がイギリスの上流社会でのジェントルマンシップの教科書として使われた。この本から人生の教訓を得た日本の若い人たちが発奮することを期待したい。