虫の鳴き声の秘密
平成13年9月18日(火曜日)上毛新聞・三山春秋より

 日曜日あたりから暑さがぶり返し、虫の音が再び大きくなった。携帯電話の着信を(スズムシ)にしてるが、先夜は「本物を」を呼び出し音と勘違いし、携帯に思わず手を伸ばしてしまった。
 
 自然界の生き物は、時の移ろいに正直だ。少し前までは激しく鳴いていた蝉も、今はそのだみ声を聞かせることは少なく、代わって虫たちが珠洲を転がすような声を響かせている。昆虫学者の安富和男さんは、二枚の前羽をこすり合わせて音を出す秋の虫たちを「ヴァイオリニスト」に例える。
 
 夏の主役を務めた蝉たちは、腹部にある発音器を使って音を出す、いわば「声楽家」だ。今や演奏会場は木立から草むらへと移動し、出演者は「声楽家」から「ヴァイオリニスト」へと交代した。
 
 大脳研究家は、角田忠信さんは「虫たちの音色を情緒的に感じ取ることの出来るのは日本人固有の特性」と指摘する。私たちは、虫の音を言語と同じ左脳で理解する。これに対し、欧米人は右脳を使うところに、根本的な違いがあるという。

 スズムシのリーンリーンと、マツムシのチンチロリンという音色の聞き分けは、日本人には容易でも、欧米人には難しいらしい。それは「人種の違いというより生活環境の差に起因する」。豊かな四季の変化の中で、日本語を聞き、話すうちに、脳に固定されていくとか。

 エンマコウロギは、一匹で鳴く「ひとり鳴き」、メスを誘う「誘い鳴き」、オス同士の「争い鳴き」と三種類の感情表現をする。そんな繊細な鳴き声を聞き分けられる日本人であることに感謝しつつ、庭先や道ばたの草むらに耳を澄ましてみよう。