中学校現場理科教師31年の結論
教師は「人間は忘れる動物である」
ことを忘れている

 群馬県渋川市立K小学校 理科専科 NEMOTOMAN

1 教師の大きな誤解、過ち

 自分を棚に上げて、教師はいつまでも子どもをコンピュータ化し、昨日教えた内容を子どもが覚えている前提で教えています。しかし、子ども達はよほど興味や関心がない限り、授業の内容は忘れます。どんなに熱心に教え、完璧な授業、分かる授業だとしても次の日にはほとんど忘れています。「あんなに一生懸命教えたのに」と教師は嘆きます。

 興味も関心も無い事を記憶できるのはある意味「異常」です。大好きなAKBのメンバーの名前は覚えられても、興味のない漢字や英単語一つ覚えるのは苦痛です。覚えているのは先生のくだらないダジャレくらいです。

 教育界は昔から研究授業を教師に義務づけ、綿密な指導案、指導計画を立てさせてきました。昨日の授業の上に今日の授業というふうに細かな系統図もできています。しかし、実態は子どもの頭の中には系統図は存在しません。どんなに系統立てた授業も、生徒の頭に入った途端、断片化しランダムになるのです。つまりほとんど忘れるのです。デフラグは不可能です。

 反復学習の必要性がよく議論されますが、その絶対的な理由がこの「忘れる」ことにあるのです。私は三一年間、生徒が忘れることを前提にした授業を考え、いかに興味を持たせるか、忘れたくても忘れない授業、理科の苦手な生徒でも理解できる方法は無いか腐心してきました。

2 簡単、明確、すぐできる 

 教師にとって実験は準備が簡単で、生徒に分かりやすく、結果が明確に出る方法が理想です。

 音の学習は全員に輪ゴム一本配って耳元で一番高い音、低い音にするにはどうしたらいいか実験させれば完璧に理解できます。「高い音、細く、短く、ピンとはれ」(低い音はその逆)という結論を導き出すのは簡単です。通常の輪ゴムと太い輪ゴムの二種類あれば十分です。モノコード(ギター)は整理用演示実験で一台あれば十分です。

 塩化銅の電気分解はマイクロ実験もいいですが、誰でも持っているシャー芯を電極にし、五〇tのビーカーで面倒な電源装置(乾電池)を使わずに、小学校でも使っている手回し発電機を使います。

みるみる陽極に塩素が発生し、陰極はチョコレートのように銅が付着します。私は「ポッキー化現象」と言っています。手回し発電機を逆に回すと銅は衝撃的にパラパラと下に落ち、そこから気体の粒が発生してきます。インパクトがあり生徒にはこれ以上分かりやすい実験はありません。廃液も少なくてすみます。

3 理科が苦手な生徒が夢中に 

 小学校で教わり、中学生でもあやふやなリトマス紙の赤と青。通常のりんごは未熟な青い状態から熟して赤くなります。生徒に「青いりんごが熟して甘く赤くなるのは賛成(酸性)かい」と聞きます。生徒は口を揃えて賛成(酸性)ですと答えます。青→赤は酸性、その反対はアルカリ性と教えます。

イモリは「井戸の守り神」、ヤモリは「家の守り神」と教え、井守は水に関係があるので両生類と教えます。ついでに田んぼの守り神は?・・タモリと言うと生徒は大爆笑です。ユーモア効果絶大。

 水の電気分解は、次のような覚え方で絶対に忘れません。+を酸素のサにするためには一筆です。−は水素のスにするのに二筆です。つまり、−極から水素、+極から酸素が2対1の割合で発生します。

水の電気分解に関する入試問題の八割はこれだけで解けます。

道管と師管はどっちが水か養分の通り道か紛らわしい。「水が通るは水道管」と教えます。入試頻出の「金星は真夜中に見られない理由」を問う問題では「金星は真夜中に見えない(内)惑星」と教えれば内惑星、つまり地球より内側を公転しているために見えないということが理解できます。

 更に、忘れたくても忘れなくする自作の「プリント教材」は非常に有効です。特に電流や磁界といった誰もが苦手にする物理分野では絶大な効果を表します。教科書通りに行かない実験を百%成功させられる方法もあります。詳しくは次の機会にしたいと思います。