ジーコ・人生の教訓   マルクス ビニシウス・著
挑戦、決断、努力が、人生に勝利をもたらす

 トヨタカップで大活躍したジーコは、MVPを満場一致で獲得した。副賞にはトヨタのセリカが与えられた。ジーコは関係者からセリカの値段を聞き出し、帰国後に自分のフトコロからチームメイトに分け与えた。「ジーコ、MVPは君のプレーに与えられたものだ。プレゼントされたセリカは君のものだよ。そこまでする必要はないと思うのだが・・・」
 早い話、MVPの副賞でプレゼントされたセリカを、ジーコが独り占めしても誰も文句は言わない。ジーコ、君は考え過ぎではないか。そう言いたかったのだが、私が言い終わらないうちに、ジーコはさえぎるように言った。「それは違う。確かにグラウンド上でプレーするのは、たったの11人だ。しかし、控えの選手がいるからこそ僕たちは安心してプレーできる。僕がMVPを受賞できたのも、チームメイトのあらゆるサポートがあってのものだ。あのセリカは僕だけのものじゃない。僕が代表して、表彰台でいただいただけだ。だから僕は、セリカに相当するお金を用意し、それをチームメイトに割り当てた。少しも不思議ではない」

 私はこの本で、一人のサッカー選手の物語を語ろうとしたのではない。ここに描かれたのは、貧しい家庭に生まれながらも、世界のトッププレーヤーになった一人の偉大な男の物語である。一つの職業を選び、人生の目標をしっかりと定め、妻と子供達を愛し、多くの友情に恵まれながら、彼は人生をしっかりと歩んできた。たとえどんな才能に恵まれようと、ある時には失敗があり、深い苦悩にさいなまれることもある。それを乗り切るには、強い精神が必要となる。

 私は、何の目標もなく、「何となく、どうでもよく」生きる人生というものを信じない。かりに、激しい感動が突然襲ってくるのと同じように、目の前が真っ暗になるような障害が、突然自分の前に立ちはだかっても、道は必ず存在する。それを探し求める力さえ備えておけばいいのだ。信念と目標さえ持っていれば、犠牲や障害に打ち砕かれることはない。人生とは、こういうものだと思う。
ジーコはそんな人生を歩んできた。