驚異の植物の知恵

    早春の花    星の瞳(オオイヌノフグリ)

【名前の由来】丸い球を2個並べた形の果実を結び、果実には短毛が密生する。和歌山県あたりの方言「いぬのきんたま」がそのものズバリ。フグリとはその古語にすぎない。果実の形がいぬの股間にみられる陰のう(こう丸)に似ていることからついた名だと思われる。

 果実の形を見ると、犬のフグリという発想はよくうなずけるが、この花の可憐な美しさにはそぐわない名である。この草の別名ヒョウタングサの方が、はるかに上品であるが、この名は普通用いられていません。
 「犬フグリ、星のまたたく如くなり」(高浜虚子)という句があるが、その花は青い星の輝きのように見え、たいそう美しいものである。そこで、この下品な和名を改めようという意見が多く、学者によって幾つかの名前が考え出されたが、とうとう一般に定着しませんでした。

 千葉県の柏あたりでは、この草をホシノヒトミ(星の瞳)と呼ぶ方言があるが、この名などは虚子先生の俳句の表現とぴったりで、たいそう文学的だと思うが、一般化されないのは残念なことです。早春の野に一面、星の輝くごとくに咲きほこるこの草を、犬のキン○○などと呼びたくないので、私は意地でもこのホシノヒトミという名前を広めたいと思っています。

 花は朝開き、ハナアブなどが止まると、長い柄のある花は虫の重みで下向きになる。虫は急いで左右の雄しべに抱きつき、花粉が虫の横腹になすりつけられて受粉が行われる。また、夕方になると両側に離れてあった2本の雄しべが、中央の雌しべの柱頭に寄ってきて、生物界でタブー視されている近親相姦(きんしんそうかん)つまり同花受粉(自家受粉)をします。いわば2段構えの受粉法で、タブーを犯してまでも種の保存に対する執念を燃やすのです。
 
 雄しべが動くという事実を一体どれ位の人が知っているでしょうか?どうぞ一度、植物の神秘の世界をのぞいてみてください。